少女ローズにとって、絵を描くことはなにものにもかえがたい最大の楽しみでした。
誰に教えられこともなく、自然にまるで息をするのと同じように自然に…、しばしば前もってデッサンすることもなく、はつらつと感情にまかせて描きました。
女優にさせようとしていた両親に秘密で描いた絵は、戸棚にびっしりなおしてありました。その中には、後年ローズがキューピーのイメージをつくりあげた時に大きなインスピレーションとなった幼い弟を描いた何枚ものデッサンがあったにちがいありません。
学校、女優になるレッスン、劇場への出演以外の残りの時間は、ローズの至福の時間でした。
書籍を販売していた父の部屋にある大量の、そしてあらゆる分野の本を読みつくし、模写し、白い紙だけでなく写真の裏や壁にもびっしり絵を描きました。
ローズが絵を描くことさえできれば、劇場の仕事を承諾することを知っている父は、家のあちこちによく削ったエンピツと紙をおいておきローズを喜ばせました。
ローズのインスピレーションはいつも突然に起こり、すぐにそれを絵にしようとすごい形相でエンピツを削りだす様子を見てはいれなかったからでした。 |