グレイ・ラザム(ローズの恋人)は、しばしばニューヨークからローズに手紙を送り、遂にローズに求婚するためボニーブルックにやってきます。グレイを隣人たちは驚きの目で見つめました。都会の服、整った身だしなみ、ローションの香り…彼は田舎の暮らしの中でもこのスタイルを変えることはありませんでした。グレイからの求婚を喜んで受けたローズは3年間暮らしたボニーブルックを去り、グレイと共に再びニユーヨークヘと向かうと、アパートを借り新婚生活をスタートさせます。ローズには雑誌社からイラストの仕事がたくさん寄せられました。ふたりはたくさんの友人を得て、多くのパーティに出席します。ローズはグレイを深く愛し信頼していました。グレイは社交界で一番カッコの良いもてる男性で、ローズが仕事で若者のイラストを描く折りには、よくポーズをとりモデルになってくれました。
この時代にローズほど幸運な仕事のすべりだしのできたアーティストはありませんでした。22才でアメリカの人気雑誌の唯一の女性イラストレーターとして活躍します。出版業界はまだまだ女性の進出を認める状況ではなかったにもかかわらずです。結婚後一時期自分のイラストにオニール・ラザムとサインを入れていたため、読者がオニール・ラザムを男性だと勘違いして女性から山のようなファンレターが届きました。それほど女性が自立して働くことはまれな時代だったのです。
結婚してすぐ、グレイの浪費癖が頭をもたげ出しました。彼は手持ちのお金がなくなると、ローズがイラストを描いている出版社に出向き、前払いを要求します。何も知らないローズが、支払い日に出版社に行くとそれはすでに支払われ、帰りのバス代にさえことかくことがたびたび起こりました。グレイは、自分の贅沢に使うだけでなく兄弟のためにも気前よくお金を使ったにもかかわらず、ローズがボニーブルックの家族に仕送りすることを嫌います。さらにグレイの父親も同居を始め、ローズの出版社にも顔を出すようになります。生活費とグレイの浪費をカバーするため、ロ-ズは毎日一日中絵を描いていました。ローズにとって絵を描くことは喜びでしたが、連日夜遅くまでの仕事は厳しいものです。疲れて朝起きられないでいるとグレイは冷たい水をローズにかけ、すぐ仕事にかかるよう催促することさえありました。今度こそボニーブルックにお金を送ろう、と思って出版社を訪れると、グレイが又もや前払いを受けていたことも。ローズにとってボニーブルックの家族は大切な特別の存在でした。母ミミーはピアノをひいていた繊細な指がすっかりゴツゴツになるまで畑仕事をし、パパオニールはお金儲けは上手ではないけれど、子供たちにできるかぎりの教育を受けさせようとしてくれ、ニューヨークに出る前はローズのために出版社をまわってくれました。また、兄妹たちは互いに力をあわせて日々の糧のために働いていました。
グレイのおさまらない浪費癖に、ついにローズは離婚を考えはじめます。ある時家出を決意し知り合いの家に身を寄せましたが、グレイの父親に直ぐに発見されてしまいました。「グレイは病気だ」という父親の言葉にローズはあわてて家に帰りましたが、ローズが帰るやいなやグレイはベッドから元気に飛び上がり口-ズをきつく抱きしめました。ローズはグレイがボニーブルックの家族にお金を送ること、妹のリーやカリスタの教育費を出すことに快く同意したため離婚を思いとどまります。しかしそんな約束はすぐに破られ、同じことのくり返しでした。ついにローズは離婚を決意し、ボニーブルックへと帰ります。
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