帰国したローズが選んだ新しい場は、ニューヨークのワシントンスクエアにあるアパートメントの最上階でした。そこにヨーロッパで購入したアンティークを運び入れ、カリスタとスウェーデン人のメイドの3人の生活が始まりました。メイドはまるでふたりの母のように厳しく彼女たちの世話をしたと言われています。
このローズの新しいアパートメントがニューヨークの芸術家たちのお気に入りの溜まり場になるのに時間はかかりませんでした。常に詩人・俳優・小説家たちが集まり、時の話題や芸術について熱く語り合い、ローズはこんな時間をなにより愛していました。そして、しばしば、本当にしばしば、困っている芸術家を援助しました。しかしローズには沢山の仕事が待っています。彼らが、談笑したり食事をしたりしている横で、時には皆が帰った後の白々と夜の明ける頃、ローズは仕事を続けていました。なぜならローズはキューピーを描くアシスタントを雇わなかったからです。すべてのキューピーたちはローズ自身の指さきから誕生していきました。長年の間にペンを持つローズの指は弓のように反り返っていましたが、キューピーの母ローズにとってそれは、喜びであり、自然そのものであったのです。
この頃からローズはある秘密の仕事を始めていました。1年もの間だれの目にもさらされることのなかった秘密は、ついに1918年、ノルウェーからの客であった夫妻の前にベールを脱ぎました。それはロ-ズ自身が「モンスター」と呼んでいた幻想的で力強い一連のアートでした。その絵に非常に感銘した夫妻は、ローズのために絵を描くアトリエを準備するので、ぜひノルウェーにきて絵を描き続けるようにとすすめました。1920年、ローズはカリスタと共にヨーロッパを旅行し、ノルウェーでは夫妻が準備してくれたオスローの北にある丘の上の素晴らしいスタジオに短期間滞在し、モンスターの作品のための新しいインスピレーションを発見しています。