ボニ-ブルックの雄大な自然は、悲しみの中からロ-ズの心をときはなち、傷ついた心をやさしくいやしてくれました。ローズのアトリエは家の最上階の3階にあり、2つのバルコニーは外へと大きくひろげられ、仕事をするローズのもとに小鳥たちがおとずれました。
そんなローズのもとに、ある日レディスホームジャーナルの編集をしているエドワード・ボクより一通の手紙が届きます。その中にはローズが雑誌のラブストーリーのカットに描いていた妖精の顔の切り抜きが入っていました。ボクは、この妖精に体をつけ子供のページに掲載してみないかと提案します。手紙を読んだローズは妹のカリスタに言いました。「ボクがわたしにキューピットのシリーズのイラストを描いてほしいといってきているわ」カリスタは「キューピッドのお話を書いている作家など聞いたことがないわ」と答えました。そしてボクが別の作家にあらたにストーリーを依頼しようとしていることを知ると「なぜ、他の人にストーリーを依頼する必要があるのかしら。おねえさまがイラスト全部を描くのだから、そのお話を書くのはおねえさまが一番ふさわしい」と言いました。そうカリスタの言うとおり、ローズはこれまでにイラストだけでなく小説も書き、出版されていたからです。
それからのローズのこころは、朝から晩まで、いえ夢の中までこの新しい妖精のことでいっぱいになりました。その頃の様子について後にローズは記者との話の中で次のように語っています。
「夢の中に、彼らがでてきました。わたしの肩のまわりを、新しく生まれたばかりの名前を喋りながら飛びまわっていて、ひとりが小鳥のようにわたしの腕にとまりました。ちょっと触ったときは人間のあかちゃんのように温かくはなく、奇妙に冷たくて、そこでわたしは彼らが妖精であることに気づきました。でもそれは新種の妖精でした。一瞬どんな妖精かしら、と思いましたが、すぐに親切で、彼らのおなかのようにまんまるのハートをもっていることがわかりました。それから、しばらくのあいだ彼らのことを考え、少しずつ彼らは哲学そのものであることがわかったのです。」
こころを決めたローズは、ボクともうひとりの編集者マーティンジョンソンにこの仕事を引き受けること、その新しい妖精の名前は「KEWPIE」であること、イラストだけでなくストーリーをも、ローズ自身が創りたいことを伝える手紙を書きました。1909年6月のことです。その手紙には、ローズがイメージするキューピーの原型ともいえる丸い顔、トッブノット、やさしい目のイラストがそえられていました。そしてローズの頭の中にはキューピ一たちの物語の構想がふつふつと沸き上がってきました。(つづく)
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